同じ布団の中に、ぐうぐう眠っていました。平助が起き上がると、正覚坊も起き上がって、きょとんとした眼をしています。暴風雨《あらし》はもう静まっていました。
 平助は正覚坊の背中を撫《な》でながら、さてその始末《しまつ》に困りました。家に置いておけば、自分が漁《りょう》に出た不在中《るす》に、村のいたずら小僧《こぞう》どもからどんな目にあわされるかわかりません。まさか床の下や押入《おしい》れに一日隠しとくわけにもゆきませんし、また、始終《しじゅう》連れて歩くわけにもまいりません。それかって、このまま海へ逃がしてしまうのも、何だか心残りです。
 平助はいろいろ考えていましたが、ふと名案《めいあん》が浮かんできました。村の側を流れてる川が海に注《そそ》ごうという川口のそばに、大きな入江《いりえ》がありまして、深い深い沼を作っていました。平助はそこに正覚坊《しょうかくぼう》を入れてやろうと考えました。川口から海へ逃げて行けば仕方《しかた》ないけれど、こういうおとなしい正覚坊だから、あるいは沼の中にいて時々遊びに来てくれかも知れない[#「来てくれかも知れない」はママ]。
「お前をよい所に住ましてや
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