い出しました。そしてそれはきっと沖の方から暴風雨《あらし》に吹きつけられて来たのだろう、と考えました。それで、元気をつけてやるために、徳利《とくり》の酒を茶碗についで差し出しました。すると、正覚坊はその中に首をつき込んで、きゅーっと一息《ひといき》に飲み干しました。平助はうれしくなりました。縁起《えんぎ》がいいと言われてる正覚坊が、向こうから訪《たず》ねて来てくれたんですもの、漁夫《りょうし》としてこれくらい愉快《ゆかい》なことはありません。平助はすぐに、ありったけのお金で、酒をたくさん買って来ました。そして二人で飲み始めました。正覚坊もだんだん元気になってきまして、しまいには酔っぱらって部屋の中をおかしな格好ではい廻ります。亀踊りをやってるのでしょう。平助も酔っぱらって首や足を振り動かしてる正覚坊にちょうしを合わして、歌を歌ったり手拍子《てびょうし》をとったりしました。
 そのうちに、酒はなくなりますし、夜はだんだんふけてきますので、とうとう、平助はそこに倒れたまま眠ってしまいました。
 朝になってふと眼を覚ますと、平助はちゃんと布団《ふとん》を着て寝ているのでした。見ると、正覚坊も
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