姿に刻《きざ》み始めました。平助が正覚坊に憑《つ》かれたという噂《うわさ》がぱっと村中に広がりました。しかし平助は、実は真面目で一生懸命だったのです。
正覚坊の像がいよいよでき上がった夕方、平助は村の網元《あみもと》の家へ行って、そこの御隠居《ごいんきょ》に、一部|始終《しじゅう》のことをうち明けました。御隠居はびっくりしました。なおその上びっくりしたことには、翌朝平助は死体となって沼に浮かんでいました。酒に酔ったあまり溺《おぼ》れ死んだのか、あるいは身を投げて死んだものか、誰にもわかりませんでした。けれども、その前の晩、正覚坊《しょうかくぼう》の像にもたれてしくしく泣いていた平助の姿を、月の光りで見たという者がありました。
村の人達は、網元《あみもと》の御隠居《ごいんきょ》から平助の話をきかせられて、大変気の毒がりました。そして、平助の死体を沼の岸に埋めてやり、その上に正覚坊の石像をのせて祭りました。
今では、その沼を正覚坊沼と言っていまして、平助が刻《きざ》んだという正覚坊の石像も残っています。沼の魚はみんなその石像に供《そな》えたものとして、誰も取らないことになっています。海で大漁がありますと、村の人達はそこに集まって大漁祝いをいたします。
底本:「豊島与志雄童話集」海鳥社
1990(平成2)年11月27日第1刷発行
入力:kompass
校正:門田裕志、小林繁雄
2006年4月28日作成
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