暗、感情の母線や子線、性格の凸凹面など、そういうものの認識の上に立つ表現方法を意味する。
 私はここに、或る建築家の歎声を思い出す。オフィスを主とする高層建築などは、眼をつぶっていても出来るし、コンクリートの家ならば、片眼をつぶっていても出来るが、木造の小住宅に至っては、いくら両眼を見張っていてもまだ足りない、というのである。住む人の、生活様式、趣味、家族の年齢、性癖などと、あらゆるものを考慮に入れなければならない上に、一本の柱や一片の木材までが、それぞれ生きた表情を形造るのである。これくらい厄介な骨の折れる仕事は他にあるまいという。――そして出来上った住宅を見ると、みなそれぞれ一の表情を具えているし、一の性格を持っている。不用らしく見えるものでもみな何かしらの役目を帯びて、全体が殆んど有機的な組織をなしている。文芸作品も、こうした有機的な組織を保っている――保っていなければならない。作品のもつ力は――その生活力は、この有機的組織の緊密の度合に懸っている。そして傑れた建築家は傑れた批判者であって、その批判の眼から、構成の緊密さが得らるる。
 ドストエフスキーやトルストイの或る種の作品に
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