クマを相手に遊びました。クマはその黒い顔に丸い眼を光らしてるだけで、彼からどう扱われようと平気で、信頼しきってるのか、全く従順なのか、彼に全身をゆだねますが、やがて倦きてくると、爪を立てて手掛りを求め、ぱっと飛びのきました。それから外を一廻りし、戻ってきて、まだ起きてる彼から声をかけられると、長い尻尾をまっすぐに立てて、その先で唐紙を撫でながら、恥かしげに寄ってきました。
そのクマが、或る時、失踪してしまいました。はじめは、さかりがついて、一匹の牝猫を中心に、集まってきた数匹の猫と一団になり、ぎゃあぎゃあ騒ぎたてていましたが、そのままどこかへ行ってしまって、一週間たっても、十日たっても、戻って来ませんでした。
仁木三十郎は、猫の自由恋愛に敬意を表して、縁先や庭の隅や菜園の中など処かまわず、彼等がうるさく鳴きたて騒ぎたてるのをじっと我慢していましたが、やがて、その賑やかな一団がどこかへ退散してしまい、それと共にクマが行方をくらましてしまったのが、気にかかりました。
平井夫婦は、クマを迎え入れたと同じ平気さで、クマの失踪を見送りました。さかりがついて遊び歩いてるのだから、やがて帰っ
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