自らそれを警戒する習慣となりました。中本相手の時には用心しながら使って仕合せでした。も少しで危いところでした。
けれども、自ら禁じたその拳法を、既に多少とも使ったのです。そこには、新たな空間が、自由に振舞える空間がありました。
そして彼は、夢みるような気持ちで、前夜のあの屋台店に行ってみました。主人は愛想よく彼を迎えました。けれどそれきりで、何の奇異もありませんでした。あの壮大な魅惑は、片鱗さえも残っていませんでした。葦簀張の屋台店はみすぼらしく狭苦しく、揚物の油の匂いがたちこめていました。仁木は無意味に焼酎を幾杯か飲みました。
もう足許がふらふらしていました。それはマラリヤの発作の時と同じようでした。そして彼は憂欝で、その憂欝に自ら憤っていました。
復興祭はまだ続いていました。或る広場に拵えられてる舞台では、新作の音頭が歌われ踊られていました。大勢の群衆が四方を取り巻いていました。
その群衆の中に仁木は押し入ってゆきました。人々の怪しみ驚くのもかまわず、人込みの中を押し分けて、舞台のまわりを歩きました。まもなく、ふしぎにも、人垣の抵抗が感ぜられなくなりました。彼の身体はその
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