と言うのはあちらの男でした。「飲む金が儲からなけりゃ飲まねえ……なあ、おい、そんなら、金を飲んだらよかろう。酒飲みは酒を飲むものなんだ。ここの店に来る者あ、酒飲みばかりだ。なあ、おやじ、そうじゃねえか。……俺なんか、飲む金がなくっても飲むんだ。それでも迷惑はかけやしねえ。おやじ、そうだろう。そこがコツさ。……なあ、おい、しみったれちゃあ、酒がまずくならあ。飲む金がなくっても、飲めるだけ飲んでみな。豪勢なもんだ。」
主人はいい加減にあしらっていました。がこちらの男は、へんに真面目とも見える卑屈さで、返事をしていました。
「そうですとも、しみったれは禁物ですな。……だから私なんかあ、弟が復員してきて、まあいくらか儲けてくれるから、こうして飲めるというもんです。……いや、弟がいなくなっても、やっぱり飲みますよ。全く、迷惑はどこにもかけませんさ。……ただの酒さえ飲まなけりゃあ、酔っ払って地面に寝ても、雲の上に寝てるようなもんですからな。」
ただの酒さえ……のそのことが、またあちらの男の気に障ったと見えて、彼はそれに絡んでまた突っかかってきました。
その時、仁木はふと立ち上って、二人の顔を
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