しがたいなどと、梅子のことについてではなく、一般論として言いだした。それから更に、日本人は全体として中国人を蔑視してるとまで言った。
敏感な星野は、話を梅子のことに引き戻しながら、一般論として弁護した。――あの時の彼女はそれならば、どうすればよかったのか。あの態度は、私情を芸妓としての教養で包みこんだ、立派なものではなかったか。あの一見素気ないような態度は決して秦を他国人として蔑視したものではない。かりに秦を日本人だったとして、同じ場合に臨んだものとしても、彼女の態度には聊かも変りはなかったろう。日本の各社会層にはその社会層特有の訓練があるもので、その訓練が身について教養となる。このことを観取しなければ日本人の美点は分らない……。
論旨が、秦啓源に理解されたかどうかは、星野にも分らなかった。なにしろ、酔った上でのことだ。然しながら、思い出すと星野は苦々しかった。ばかばかしいことを論じたという気がした。二人の愛情のことだけを尋ねて、慰めてやればよかったのだ。
そのことをも、星野はもう殆んど忘れていた。ただあの街頭の一瞬の情景だけが、後になるほどへんに生々しく浮んでくるのだった。
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