は僕の理解を超えたものだ。」
「それほど大袈裟なものでもなかろう。」と私は言ってみた。
秦は素直に首を傾げた。
「僕が誇張して感じてるのかも知れない。けれど、じっと見ていると、心配にもなってくる。熱冷の間を往き来しているうちに、あれの感情……情熱は、何かこう生理的に、一挙に滅びてしまう、ぷつりと切れてしまう、そんな懸念が持たれないでもない。」
「病気ではないのかい。」
「さあ、医者にかかることを嫌うから、はっきりしないが、熱が出るらしい。肺を病んでるようでもあるし、心臓が弱ってるようでもあるし、神経が疲れてるようでもあるし……どうもよく分らん。」
だが、秦の関心がそんなところにあるのでないことは、私にも分った。彼にとって私は、どんなことでも打明け易い相手ではあったとしても、その打明けるべき肝腎なことがまだ不分明だったのだとも言えよう。
暫く沈黙の後に、私は言った。
「まあ、君の愛情で、彼女をやさしく包みこんでしまうんだね。」
秦は眼を挙げて、じっと宙を見つめた。
「そいつが問題なんだ。もともと、僕の愛情も……不純だったかも知れない。はじめはあれの一風変ったところに心が惹かれ、そ
前へ
次へ
全31ページ中8ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング