に住ませた。彼女に身寄りの者はなく、楊さんだけがなにかの縁故者だという。彼女は金銭には甚だ恬淡で、装身具ははでずきで、また種々の化粧品をやたらに買い揃えて喜ぶ癖があった。
このように彼女の両面だけを書き並べると、その実体は怪しくなる。だが、或る夜、私は驚かされた。
その晩私は秦啓源と二人きり、アルカヂアで、踊り子なしのキャバレー・バンドを聞きながら、豊富なザクースカを味い爽醇なウォートカに酔った。そしてどういう話題の廻り合せか、秦は告白的な低声で丹永のことを語っていた。
「……氷炭相容れず、冷熱並び存しない筈だが、あれのうちには、それが二つとも、りっぱに存在し得るのだ。あれの情熱は、或る時は熱烈に燃えたつが、或る時は無関心以上に冷淡になる。何が契機でそうなるのか、僕には見当もつかない。藁火のように燃えたつかと思えば、水をかけた灰のように冷たくなる。何でそうなるのか分らないだけに、こちらではまごつかされる。女の感情……情熱というものは、一体に長続きしないものであることは、僕も知っているが、あれのは極端だ。何かこう全身的に、全身の機能的に、火と氷との間を振子のように移り動いてゆく。それ
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