ついた。額に汗がにじんでいた。――何か災があるに違いなかった。
 この予見された災のことを、彼女は、秦の不在中に来あわしていた陳振東に話した。陳は笑って取り合わなかった。然しその深夜、張浩が狙撃されたのである。
 この時の、全く些細な偶然――災の予兆を丹永が陳振東に話したということが、大きな結果を招いた。
 陳振東は霊界のことなどは全然信じない逞ましい精神を持っている。この精神は逞ましいと共に溌剌として健全だ。そして災害が予見されたということが、加害者に対する彼の激怒を煽り立てた。加害者が仲毅生だと分った時、彼の激怒は更に倍加した。
 仲毅生は嘗て、秦啓源を訪れてきたことがある。二度目に来た時は柳丹永にもちょっと逢った。五分か十分かの短い訪問で、別に用向もなかったらしいが、張浩に逢いたがってる旨をほのめかした。彼奴、商取引の仲間にはいりたがってるようだ、と秦は笑った。――この嘗ての訪問を陳振東は思い浮べた。それが丹永の予見と結びついて、なにか脅迫的なものを彼に感じさせもしたらしい。
 結果は奇怪な復讐となって現われた。――茲に前以て言っておこう。陳振東は二人の仲間を引き連れて、城内地区
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