ードのガウン姿、それでいて細そりと見え、唐草地模様の桃色のネッカチーフを、黒髪の上からすっぽりと※[#「臣+頁」、第4水準2−92−25]へ結んでいる。その絹布からのぞいてる彼女の顔を、私は思わず視つめた。血の気が引いたような白い薄い皮膚の下、緊張した肉に殆んど何等の動きも表情もない。生理的な営みが瞬時に停止して而もなお生きているとするならば、恐らくこういう顔になるだろう。そのなかで、ごく緩やかな動きしかなさない黒目の一点にぽつりと光を浮べ、薄い唇のはじに犬歯の先端が白くほの見えている。
私は彼女の顔を見つめたまま立ち上って、軽く一揖した。彼女も軽く身を屈めた。――私は支那語が話せないし、彼女は日本語が話せないのだ。
秦と彼女とはなにか短い言葉を交わした。彼女は椅子に身をおろして、先の尖った細い指に※[#「臣+頁」、第4水準2−92−25]をもたせた。
秦が何か言うと、彼女は私の方を見てうなずいてみせ、それから二人の間にまた短い言葉が連続した。秦の調子にはやさしいいたわりがあり、彼女の調子はへんに機械的だと、私には感ぜられた。
然しそれよりも、随分と強烈な芳香が、さきほどから私
前へ
次へ
全31ページ中11ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング