い夜は夜の闇を、嵐の夜はその雨風を、超自然的な帷のうちに抱きすくめる。その帷の襞や裾の奥から、無数の神秘な眼がじっと覗き出す。凡て物影に潜んでいるもの、人の眼につかないもの、形も色も音もない幽鬼の気、この世のものでないものが、空に地に浮動し彷徨する。而もそれはただ魂に感ぜらるるだけで、其処から来る魂の慴えも手伝って、官能の対象たる沈黙と静寂とは、層々とつみ重った深みを倍加する。地上の生ある物皆は、人も獣も草も木も、そういう深みの底に沈み溺れて、蠱惑的な窒息に眠り入る。それはまさしく、寂滅の時、逢魔の時、呪咀の時、丑時参りの時刻である。露や霜も降りるを止める、時間も歩みを止める、死と神秘との時間である。ただ時計の針の止らないのが不思議である。
そして、冬ならば四時頃、夏ならば三時頃、突然或る物音が響く。身震いに似た木の葉の戦き、ぽーと尻切れの汽笛の音、無意識的な犬の遠吠、または何物とも知れぬ擾音、それらの一つがふいに何処からともなく起ってくる。それが相図である。沈黙と魔睡との底に凝り固っていた万象が、一斎にぞっと総毛立ってくる。星の光がぎらぎらとした凄みを帯びる、月の面がまざまざと磨き
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