閉された寝室の中はやはり息苦しい。多分の血液を湛えている皮膚には、面皰《にきび》や薄痣や雀斑などが浮上っている。黄色い歯並の覗き出してる半開の口、ぽかんとした空洞な鼻孔、そこからすーっすーっと、時々ぐるぐるっと、息が通っている。
そういうのが一室に六つ、窓際から廊下の扉の方へ、横に三つずつ二列になって、ぎっしりつまっているのである。
廊下の電燈の光が、櫺子《れんじ》窓の黝ずんだ擦硝子に漉されて、ぼーっとした明るみを送っている。その盲《めし》いた朧ろな明りが見ようによって、或は赤っぽく、或はだだ白い。
或る夜、六人のうちの一人が、ふいに掛布団をはねのけて飛び起きた。
「地震だ。」
その咄嗟の本能的な叫び声に、却ってしいんとなったところへ、どどどど……ぐらり、ときたやつが、ふらりふらりとなって、波の引くように消えてしまった。
ほう、といった気持で、布団から覗き出してるのと起き上ってるのと互に顔を見合った。
「なあーんだ。」
皆こそこそと布団の中にもぐり込んだ。
「誰だい、悲鳴を挙げたのは。……本当にひどいやつが来たら、逃げようたって逃げられやあしない。死なば皆諸共さ。」
だが
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