非解決すべき問題だね。」
 お喜代はつんと澄しこんでいる。たるんだ頬の肉附が緊張すると、妙になま白い彫刻的な横顔にみえてくる。
「勝手にするがいいわ。あたしはキスを切り売りなんかしませんからね。好きな人にはただで許してやるわ。だけど、あなた方なんかには御免だわ。」
「こいつはお手酷しいね。まあそう云わないで、どうだい僕に一つ。」
「僕にも一つ。」
「俺にも一つ。」
「はははは。」
 反応がなくて、手持無沙汰になって、出すぎた冗談が自分に戻ってきて、彼等は思い出したように杯を取り上げる。
「おい、お酌くらいはいいだろう。」
「はーい。」
 ばかに大きな声を出して、お喜代は顔の筋肉一つ崩さないで銚子を取り上げる。
「君がそうして怒った顔は、また別な趣きがあるね。」
「まあー、お止しなさいよ。」
 打つ真似をして、とうとう笑い出してしまう。それにつけこんで四方から、好奇な眼がぬうっと伸び出す。押しあいへしあい、前へ前へと出ようとしてる気色である。
「止せ、下らないことで一人の女をからかうのは。」
 胸の鬱積が高まってきて、和田弁太郎は思わずわりこんでゆく。皆その方を振返る。で彼はぎくりとする
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