「あるじゃないか。」
「そう。教えて頂戴。」
そこへ額の白い一人がはいりこんでくる。
「もういいじゃないか、それくらいで……。白っばくれるのは、何より有力な証拠さ。そして、一度あれば、二度三度と……当り前じゃないか。」
それでも「慷慨悲憤」はなお、お喜代の口から白状させようとする。彼は何かしら、「刺繍」に――絹ハンケチを買ってやった者に、反感を懐いてるらしい。その晩「刺繍[#「刺繍」は底本では「剌繍」]」が一人室に残って手紙を書いてることからきたものらしい。
「知らないわ。」
お喜代はぶっきら棒にそう云って、わきを向いてしまう。
「それみろ、」と「白額」が云う、「公爵令嬢の御機嫌を損ねたじゃないか。」
「いやこれは失礼しました。」と「慷慨悲憤」はとぼけた態度に出る。私はただ、御令嬢のキスの価何程なりやと、そういう疑問を起しましたものですから。」
「何だって、」と他の一人が乗り出してくる、「キスの価が何程なりや……。」
「そうさ、」とまた急に調子が変る、「例えば、刺繍[#「刺繍」は底本では「剌繍」]絹ハンケチ一個に対して、何回のキスを支払うか、という問題さ。」
「そいつは面白い。是
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