の青年である。そして中に一人剽軽な者がいて、刺繍入りの大きな絹ハンケチを彼女に贈ったところが、それを頸飾りみたいに首へ巻き縮らしたのが、彼女に不思議とよく似合った。
「いよう、素敵、素敵。公爵令嬢といったところだ。」
彼等は手を叩いて喜んだ。
彼女は少し酒が飲めた。酔ってくると、絹ハンケチを首に巻き縮らして、勿体ぶった様子で出て来る。そして皆の方へ後手を一寸差伸して、上目がちに会釈をしてみせる。
彼女は時々活動写真を見にゆくのである。
がそれ以外には、彼女は普通の至極平凡な女給である。
「ねえ、あたしまだ都々逸《どどいつ》がよく歌えないの。教えて頂戴。」
気持のこもらない眼付で、声の調子だけに媚びを含めて、誘いかけてくる。
「止せよ、都々逸なんか。それよりか、初めよう、例のを。」
仲間の一人が休暇中大島へ行って大島節を輸入してきたのである。
誰か一人が音頭をとる。
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わたしゃ大島
御神火そだちよ
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初めの一句は調子外れで、後はどうにか歌ってのける。その次は皆の合唱である。
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胸にゃ煙が
絶えやせぬ
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