初める。
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かすみのたなびく
はるの野べに
ほほえむすみれの
ゆかしきかな
なつくさしげれる
おかのうえに
さけるなでしこの
やさしきかな
人の世のためし
いかにもあれ
神とともにある
身ぞやすけき
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和田弁太郎はその歌声に耳を傾け、それら一団の顔を眺める。そして彼女等の生活を想うのである。
そして彼の頭には自然と一つの比喩が浮んでくる。若い男子の共同生活が蚯蚓の群居であるとすれば、若い女子の共同生活は蝶の群居である。蚯蚓の群居は如何にねちねちした息苦しい、そして卑俗的な窮屈なものであることか。それに反して蝶の群居は如何に爽かな香《かぐ》わしい、そして高踏的な自由なものであることか。とそんな風に彼は感ずる。蚯蚓の鈍感な皮膚と根強い生活力、蝶の敏感な触角と脆い生活力、それを彼は知らない。然し無知は空想を妨げない。彼は彼女等処女の共同生活を想像してみて、それを自分達の共同生活と――自分が感じてる共同生活と比べてみる。
歌の合唱はまた繰返される。
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かすみのたなびく
はるの野べに
ほほえむすみれの
ゆかしきか
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