室の天井裏に、ギーイ、ギーイと、大きな音が起るようになった。巨大な箱の中で木材を丸鋸で挽くような音である。風の吹く時に限るのだが、それも、余り強くなく弱くない風で、軒端に正面から吹きつける場合だけである。
 音の原因は、誰が見調べても一向に分らなかった。古い家屋だけれど軒端に穴があいてるのではなかった。然しどこからか天井裏に風が吹き入ってそこで太鼓やバイオリンの胴体みたいな作用をし、大きく鳴り響くのであろうか。または、ぴんと張りつめた薄板のようなものがどこかにあって、それが風に鳴るのであろうか。先ずそんなことしか考えられなかった。いずれ大工さんにでも頼んで調べて貰おう、ということになったが、それが延び延びになっている。
 そして或る程度の強さの風が正面から吹きつける場合、白昼でも深夜でも、時を択ばず、天井裏に、ギーイ、ギーイと、音が響くのだった。
 山田は眉をひそめた。
「まだなおさないんですか。よく気味わるくありませんね。」
「だって、べつに怪しいこともないんですもの。」
 小父さんが、押入の天井板を押し上げて覗いてみたが、どこにも異状はなかったそうである。
「怪しいことがなくったっ
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