だ。
「それでは、いつでも来て下さいますね。」
「この通り、来ていますよ。」
 然しそれが、週に一回とか五日に一回とかならば、まだよいが、次第に頻繁に、殆んど毎日のようになっているのである。山田の頭に憂欝なものが立ちこめる。それでも彼は、美津子の結び文を心待ちにし、それが来ないと、自分の方からのこのこ出かけて行く。彼女の方からは彼の家にあまり来ない。
「やっぱり、いらしたのね。」
 そして簡単な握手とキス。中年の男女の爛れたような情慾はそこにない。ただなにかしら投げ出しきったような愛慕だけだ。山田は泊ってゆくこともめったにない。
 そういうさなかに、事が起ってきた。
 美津子は奥の八畳の室に起居している。廊下を距てた離室みたいな造りである。母屋の方に小母さんたち一家族が住んでいる。山田の所へ結び文を持ってくる少女は、小母さんの娘だ。この一家族は美津子の親戚筋に当るが、美津子がどう言いくるめたのか、山田と彼女との関係には一切干渉しないことになっている。その他の点では、同居とも下宿ともつかない大まかな共同生活である。
 ところで、或る日、烈しい突風が吹き荒れたが、それから後、時折、美津子の
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