らめを仰言ると、また……。」
彼女は抓るまねをしたが、山田は構わず占いを続けた。だが、でたらめを言ったのではなかった。汽車に乗って真直に行く……いや汽車が真直に走ってゆく。水戸から先、真直に東へ走ったら、太平洋にはいり、海底へ没するだろう。没してもなお、真直にどこまでも行くんだ。ちょっと来いも何もかも、もう間に合わないのだ。
そこに、遠い遠い疎隔があった。ただ、それに耐え得られるか。
山田はトランプを投げ出して、立ち上った。
「もう帰ります。」
美津子は酔いの廻った黒光りする眼で、じっと山田を眺めた。
「帰りますよ。」
「ええどうぞ。」
彼女が怒ってたって構やしない。もう十二時近くだ。山田はふらふらする足で出て行った。粗らな小店の表戸ももう締め切ってあった。かすかに春草の匂いのする荒野で、山田は小便をした。それから少し行くと、後から美津子が駆けてきた。
「あなた、怒ったの。なにか気に障ることがあったら、御免なさい。」
「怒ってやしません。」
「でも、何か考えていらっしゃるんでしょう。真直に海の中へ入るなんて……。考えちゃいや。ね、もう何も考えないことにするの。」
山田は黙っ
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