みに行く。池の中には、泥にしっかと四足を踏み込んだ大きな牝蝦蟇の背中に、幾匹もの牡蝦蟇[#「牡蝦蟇」は底本では「牝蝦蟇」]が群がって、執拗な争いのうちに絡みあっている。気を失った牝蝦蟇は、なお背中に一二の牡からしがみつかれたまま、臍のない太鼓腹を上にして、ぽかりと水面に浮んでくる。
そういう自然に取巻かれて、蜜蜂の羽音のする物影に、二人の男が若草の上に寝そべっている。その一人は上気した艶やかな頬を輝かして、薄ら日の光を微笑の眼で迎えながら、独語の調子で語り続ける。
――だって、どうにも仕方がないのだ。僕の魂は風船玉のようなんだ。一つ処に繋いでおいたら、空気がぬけてしぼんでしまうばかりだから、風のまにまにとばしておくのさ。何か一つを選べって? 選べるくらいなら、こんなに彷徨し続けやしない。僕の眼には凡ての女性が、同じくらいに、そして別々の色合で、みな美しいのだ。昼間の倦い明るみの中に居ると、僕の心はあの娘の処へ飛んでいく。娘の小ちゃな魂を、ぎゅーと掌の中に握りしめて、空高く放り上げてやろうか、地面の上に踏みつぶしてやろうか、それとも胸にやさしく抱いてやろうか、何れともきめかねて、惑わ
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