、室咲の花、紙や布で拵えた花、それにより多く似てるそれらの花が、如何に華かでまた淋しいか! そして上には、日の光の曇った盲いた空が、余りに強い光や風を防ごうとするかのように、軽やかではあるが低く狭く垂れている。息苦しい陶酔が地上を支配する。自分の舞に眼の眩んでる蝶が、物狂わしく行方に迷っている。自分の声に魅せられてる小鳥が、喉の裂けるまで囀り交わしている。そして今、それらのものをのせた大地の肌が、種子の芽ぐみ卵の孵る温気にじっとりと汗ばんで、間を切って息している。息と汗の蒸気とがもつれ合って、ゆらゆらと陽炎の立つ片隅に、まだ背肌の乾ききらない蛇が、淫蕩なとぐろを巻いている。叢の影から、蛙が大きな目玉をむいている。朽葉の上には、蛞蝓が鈍銀の粘液をぬたくりながら、匐いだしかねて角を潜めている。彼等は――蛇と蛙と蛞蝓とは、互の恐怖から悚んでるのではない。無関心な眼で互に眺めながら、自分自分の猥らな思いに、うっとりと考え込んでいる。そしてそのまわりを、紺青に金線のある蜥蜴が、ひょいひょいと頭をもたげては、また小足にすばしっこく馳け続ける。やがて彼は喉が渇いて、顎をぴくぴくさせながら、池の水を飲
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