れたら掌がむずむずしそうな、無羞恥な蠢めきをしている。脂濃い女の髪の、一筋一筋が生きていて、それが一塊にもつれ合って、じっとりと寝乱れた形である。
 日向にまどろんでる猫は、無神論者……というより寧ろ、無神者である、彼が所有してる神もなければ、彼に君臨してる神もない。神のない世界に日向ぼっこをしている彼は――淫蕩な身体をうっとりと横たえてる彼は、刹那主義の享楽者である。そして、神のない地上の刹那々々の享楽は、如何に蠱惑的でまた力弱いことであろう! 其処に、春の歓楽と哀愁とがある。一の面影を石に刻み込むだけの力強い執着は、この世界には存在し難い。一の面影から他の面影へと転々と移りゆく所に、若々しい生命の喜びがあり、忘られた面影やまだ見ぬ面影が現在の面影の上に重なってきて、やるせない惑わしが生ずる所に、神のない楽園の悲しみがある。
 此の世界を見つめていると、もやもやっとした中から、次第にさまざまな象が浮出してくる。――その少しを捉えてみよう。
 桃や桜や菜種や紫曇英[#「紫曇英」はママ]などの花が咲き乱れている。葉が少くて花が多く群ってるのは、宛も人造花の姿である。自然に咲いた花によりも
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