と親指とで、軽く杯を挙げてみせた。
「あ、そうですか。」
笹部は平気で、示された通りの持ちようを真似た。その手先がやはり不均合に大きかった。
「わたしは少し観相の方を研究してみたことがあるが、君の相は……中以上のように思える。まあしっかり勉強するんだね。」
最後の一句をとってつけたように早口で云って、中野さんははははと笑った。
それが不意に、一座の空気を一変さしてしまった。笹部はじろりと中野さんの方を見て、それから執拗な眼付を膝頭に落した。喜代子はぽーっとした赤味を頬に上せた。もう出来上った一人前の女の顔付だった。
「叔父さま、昨日お願いしましたことは……。」
「うむ、聞いてあげるよ。」
中野さんは云い捨てて立上った。足元が少しふらついていた。それをどしんどしんと踏みしめて、奥の室から紙幣の束を持ってきた。
「これを持ってゆくがいい。入用なだけある筈だから。」
それを手に取った喜代子の眼が、また黒水晶のように光ったようだった。
「有難う存じます。」と笹部は低く頭を下げた。
「なあに、礼には及ばないが……度々こんなことのないようにして貰いたいね。」
中野さんはひどく不機嫌にな
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