は喫驚したように眺めた。
 だが、笹部の奴、あの大きな手をして……。
 中野さんはふいに真面目な調子で云った。
「場合によっては、わたしが引受けてやらんこともないが、一度笹部君と一緒に来てごらん。よく笹部君から話を聞いてからのことにしよう。お前達のことについては、わたしにも或る種の責任があるように思えるんでね。」
「笹部と一緒に……そんなことを……。」
「遠慮することはないさ。……お前を信用しないというのではないが、一寸笹部君にも逢っておきたいんでね。」
「だって、叔父さまは、あたし一人ではいけないと仰言るんですの。」
「そうじゃない。誤解しちゃあ困るよ。余りお前達が寄りつかないから、こんなことでも口実にしないとね。」
「じゃ聞いて下すって。」
「まあそれからのことさ。明日の晩はどうだね。」
「ええ。」
 中野さんは改めて葉巻に火をつけて、ぱっぱっと吹かした。

 俺は改めてゆっくり彼奴の顔を見直してやらなければ……喜代子のために。
 そんな風な考え方をしながら、中野さんはいつもより長く晩酌の餉台に向っていた。
 前夜の雪が降り積って、しいんとした寒い晩だった。子供達はあちらの室で炬燵
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