ですけれど……。」
そして喜代子が途切れ途切れに云い出した願いというのは、二百円借してほしいということだった。――笹部と同棲してから二階をかりてる、そこの主人一家が、二十五日頃までに大阪へ引上げてしまう。所が二ヶ月ばかり下宿料の借りが出来てるので、是非ともそれを払わなければならないし、よそへ引越すのにもいろいろ費用がかかるし、正月の仕度も少ししなければならない。どうしても二百円ばかり足りないから、笹部が方々奔走したけれど、年末のことで思うようにゆかないのだそうだった。
「今更自分の家へも頼みに行けませんし、また笹部も、私達のことから国の家とは少し仲違いになってるものですから、ほんとに困ってしまいましたの。叔父さまに助けて頂くと、一生御恩に着ますわ。図々しいお願いですけれど、どうにもならなくなったんですもの。」
中野さんは喜代子の美しい眉と頬の皮膚とを見ながら、敷島の煙をふーっと吐き出した。
「ほほう……。」
それから不意に、喜代子の派手な着物が眼についた。
「だが……お前の様子を見ると、さほど困っていそうもないじゃないか。そんな……しゃれた身装《みなり》をしてるところを見ると。」
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