知る、漠然とした一種の匂い――雰囲気だった。中野さんは眼瞼のたるんだ大きな眼を瞬いた。
「お前達は仲がいいだろうね。」
 喜代子がふいに顔を赤くした。
「いつまでも仲よくしなくちゃいかんよ。」
 馬鹿馬鹿しかったが、変に腹が立っていた。
 二人は食事が済むと間もなく帰っていった。笹部はぎごちないお辞儀をし、喜代子はひどく丁寧なお辞儀をした。
 その時中野さんは、喜代子が子供達とは余り口も利かずに澄していたことを思い出した。初めての笹部が一緒だったので、子供達と食事を共にしはしなかったのだけれど、二三度顔を出した静子に対してさえ、喜代子は変に取澄した態度と言葉とを示した。
 ああなるものかな、と考えながら中野さんは二人の後を見送った。
 それから、中野さんは茶の間に引返してきて、家事万端をみてくれてる年取った女中に尋ねた。
「どう思う。」
「え?」と女中は怪訝《けげん》な眼付をした。
「あの男をさ。」
「立派な方じゃございませんか。」
「ふむ、そうかな。すると……手の大きいのは玉に瑕《きず》というわけか。」
「え? 手の……。」女中はまた怪訝な眼付をした。
「ははは、まあいいさ。」
 だ
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