達のこと……然し、話す方も聞く方も気乗りしない調子だった。
 何だか変だな……と思って中野さんは不意に立上った。そして、女中達に云いつけて早々に食事の仕度をさした。
 二人は別に辞退もしないで餉台に向った。
 笹部は大きな手先で不器用に杯を受けた。親指の先を縁にかけ、四本の指で糸底を支えて、何杯もぐいぐいと飲んだ。いくら飲んでも平気らしかった。が中途でぴったり杯を伏せてしまった。
「もう御飯を頂きます。」
 その御飯を彼は、よく使えないらしい箸先で慌しく口へ押しこんで、一寸形式だけ噛んですぐに呑み下した。
 行儀よく食べてる喜代子と並べてみると、笹部の躾の悪そうな様子がひどく目立った。それと共に、顔の醜い感じと手先の大きさとが更に目立った。そして額のあたりと※[#「臣+頁」、第4水準2−92−25]の先とが、妙に整いすぎた形を具えていた。
 中野さんは一人で杯を重ねながら、また海の話なんかを持ち出した。そして心では、笹部の額と※[#「臣+頁」、第4水準2−92−25]の先とだけは喜代子にふさわしいと考えてるうちに、ふと、笹部と喜代子との間に同じ匂いを感づいた。男女関係に通じてる者のみが
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