然と想像していただけで、大して興味を持っていなかった。笹部は実業方面のことには更に知識がなく、また興味も持っていなかった。二人の間に持出された話題はみな、二三言で鳧がついてしまった。喜代子までが変に取澄して黙っていた。
すっかり調子が違ったな、と中野さんは思った。そして喜代子から転じて笹部の方へ向ける中野さんの眼は、沈黙がちなうちに次第に鋭くなっていった。
中野さんは骨董品をでも鑑賞するような風に、いろんなことを見て取った。――喜代子の顔に、ぽつりぽつりとごく僅な雀斑《そばかす》が見えていた。その今まで気付かなかった雀斑が、心の持ちようによって、彼女の表情を一層底深くなしたり浅薄になしたりした。彼女はやはり、その長い揉上の毛とすっと刷いた眉毛とそれにふさわしい眼とで、美しさに変りはなかった。――笹部は、一寸見たところごく整った顔立だった。がその顔立から、眼も鼻も口も平凡に恰好よく並んでいながら、よく見てると一種の醜い感じが浮出してきた。どこが醜いといって捉えどころのない、云わば、特徴のない凡俗さとでもいうような醜さだった。それから、身体の割合に手首から先が妙に大きくて、手指も長すぎ
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