けれどいつとなくその長雨が霽れると、小春のいい天気に返った。少しく南に廻った鈍い日脚が、野の上を一面に黄色く輝かした。そして大地の上は見渡す限り、活動と収穫との時期に返った。雨に痛んだものは何もなかった。稲の穂は実のりのいい黄色い重さに、田の上を一面に波打っていた。重く倒れかけた蕎麦畑の間からは、雲雀が空に舞い上った。大根や里芋も黒い土の中にむくむくと根を張っているらしかった。そして村の人々は皆田畑に出た。収穫の喜びが彼等の日に焼けた顔の上に在った。そして雨に封じられていた彼等の筋肉の力は、今や大地の上に試みられていた。
そういう中から、またぽつりぽつりと巡礼の旅に出かける人達もあった。彼等の前には広い野があった。野の上には一面に紅葉した草木があり、祈らるるような清く澄んだ大気があった。朝には路傍の草葉に露が結び、夕には西の空が赤く焼けた。
雨に封じられていた心が雨と共に霽れると、凡ての人の前には急に深い秋が現われていた。収穫の秋が、そして祈祷の秋が、また少数の人にとっては瞑想の秋が。何時の間にか深くなった秋を驚いて見つめた地上の人々は、四五日の好晴の後には、もう自ら深い秋のうち
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