。そう考えて私は、農園の仕事をあなたと共同経営にしたいと思った。あなたも同意した。
これまでは順当な経過である。そしてここで見誤ってならないのは、私たちの愛の誓が先にあって、それから農園経営の話が次に出てきたことだ。実際問題として、私の財産が農園の単独経営には不安な程度のものだったことも事実だし、またあなたの亡夫の遺産が亡夫の兄の漁業失敗の余波を受けて意外な損害を受けていたことも事実だが、そうしたことが農園経営に不適当だったとしたら、何も農園と限ったことではなかった。そうはっきりと分れば、私は他にもっと手頃な仕事を考えてみればよいのであった。だが私の愛は、多少の冒険をも辞しなかった。あなたはまた、所謂有閑婦人的な軽快さで、それから生活の倦怠と新奇な期待とで、他愛なくうち喜び、小鳥が囀るように、岡部周吉に何やかや饒舌りちらしてしまった。
岡部にあなたが饒舌りちらしたことを、私は咎めはしない。結果に於てそれは有益だったかも知れない。実際に農園を初めていたら、私たちの財産がどうなっていたか私にも見当はつかない。あなたの小さな小供の家庭教師というか補導者というか、あなたの亡夫の兄から推薦さ
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