沼のほとり
――近代説話――
豊島与志雄
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【テキスト中に現れる記号について】
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)小説4[#「4」はローマ数字、1−13−24]
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佐伯八重子は、戦争中、息子の梧郎が動員されましてから、その兵営に、二回ほど、面会に行きました。
二回目の時は、面会許可の通知が、さし迫って前日に届きましたため、充分の用意もなく、一人であわてて駆けつけました。そして、長く待たされた後、ゆっくり面会が出来ました。
帰りは夕方になりました。兵営から鉄道の駅まで、一里ばかり、歩きなれない足を運びました。畑中の街道で、トラックが通ると濛々たる埃をまきあげました。西空は薄曇り、陽光が淡くなってゆきました。面会帰りの人々の姿が、ちらりほらり見えますのが、時にとっての心頼りでした。
小さな店家を交えた町筋をぬけると、突き当りが停車場です。その狭い構内に、大勢の人がせきとめられていました。
――東京方面への切符は売りきれてしまった。
そういう声が、人込みの中に立ち
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