て、どの家にも電灯がついていました。
 薄汚れた暖簾のさがってる蕎麦屋がありました。黒ずんだ卓子が土間に並んでいて、やはり兵営での面会帰りと見える人たちが、代用食らしい丼物を食べていました。
 八重子もそこにはいってゆき、お茶を飲みました。そしてお上さんにいろいろ尋ねてみて、この辺には宿屋もなく、乗り物もなく、泊めてくれる家も恐らくないことを、知りました。
 八重子は駅に戻りました。上り列車はまだ八時すぎのが一つありました。けれど本日分の切符は全く売りきれだということが、切符売場で確かめられました。
 駅内の腰掛には、多くの男女が、何を待つのか、ぼんやり坐っていました。子供連れの者もありました。腰掛の上に寝そべってる者もありました。その片端に、八重子は腰を下しました。――一枚の乗車券を手に入れるために、徹夜して長い行列をつくる、そういう時代だったのであります。
 八重子は眼をつぶりました。何よりまず梧郎のことが、瞼のなかに浮んできました。軍服がだいぶ身についてきたきりっとした態度、陽やけした顔にのぼる男性的な微笑、それでもやはり、お母さまという幼な時代通りの甘えた語調……。
 食物は禁
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