た。そしてその晩御飯も食べさせられないで、しくしく泣きながら冷たい床の中に入《はい》った。
おせい[#「せい」に傍点]は金さんが造兵から帰ると、訳も云わないでぷんぷん怒っていた。
「造兵の女《あま》っちょの処へ行っちまうがいいや、飲んだくれの間抜けなんか私は真平《まっぴら》だよ。」
「何を云うんだい、馬鹿野郎。」と金さんも怒鳴った。
「へん私はどうせ馬鹿だろうさ。」
金さんは自分で立って行って、台所で冷酒をコップで煽《あお》った。
金さんが造兵に出る様になってからそういう喧嘩は珍らしくなかった。又実際、夜勤の方に廻る様になると、其処に入り込んでいる怪しい女にひっかかることもよくあるらしかった。朝彼は酒ぐさい息をしてよく帰って来た。そんな時は屹度、四時頃彼がまた夜勤に出かける時一騒動が起るのであった。
庄吉はそんなことを傍《はた》からじっと見ていた。そして彼の心に映ずる世間も次第に複雑になっていった。
大留の仕事場でも彼は物影から種々な話をきいた。彦さんと音さんはよく棟梁の居ない時なんか面白い話をして笑い合っていた。
「れこ」とか「張る」とか「なか」とかいう言葉がよく彼等の口か
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