3−上−18]った、平たく踏み広げられていない、恰好のよいちんまりした足先だった。みさ子にもこういう足先を与えてやろう、と私は思った。そしてまた我知らず、彼女の身体を見調べ初めた。井桁くずしのお召の着物が軽やかに垂れてる下に、彼女の足はすらりと伸びてるらしかった。みさ子にもそういう長い足がふさわしかった。ただ彼女の方は、どんなに想像しても跛足ではなさそうだった。然しみさ子は、一目では分らぬくらいのかすかな跛足だった。女学校の二年の時、不意の失火で家が焼けて――それ以来一家は零落しみさ子は学校を退ったのであるが……その折左足を挫いて、それが膝関節の神経痛となり、今でも時々痛むことがあった。そして向う脛の両側に、大きなお灸の跡が二つついていた。そういうお灸の跡なんかは、彼女の足にはなさそうだった。がそれは外から見えないことなので、まああるものと想像しても事は足りた。――ただいけないのは、彼女の胴体の容積だった。墨絵式の雲をぼかした中に円に鳳凰や竜の古代更紗模様を入れた羽二重の帯で、固くしめつけられてはいたけれど、鳩尾から腹部へかけて、大きな山腹を思わせるような、ぼってりとした容積で肉がつい
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