ていた。がみさ子はそれほど偉大な胴体を具えてはいなかった。何処か腺病質な弱々しい体だった。その上、彼女の肩の肉附も、みさ子には少し重々しすぎた。ただ肩がすらりとこけて首筋が長いのは、みさ子そっくりだった。
 その時彼女は、私の視線を感じてか、一寸ぴくりとした身振で両手を挙げて、着物の襟をつくろい、絽縮緬の羽織の前をかき合せ、両の袂を膝の上に重ねた。その指先を見て、私は眼を見張った。それは全くみさ子の指だった。蛇のようによく物に絡みつく、長いしなやかな指、膝の神経痛と関係のある、一種病的な神経質な精緻な触感を持ってる指、そして円く反った細長い爪。みさ子はピヤノと編物とに適した手を持っていたが、まだどちらも習ってはいなかった。けれども不精なためか或は習癖からか、否恐らく無意識的な感情から、洗濯を非常に嫌がっていたし、手先や爪を大変大事にしていた。そして化粧をする時の指先が極めて巧妙だった。
 汽車は横浜に着いた。料理屋の女中と番頭みたいな二人連れは降りたし、実業家らしい半白の男も降りた。車内が前よりも一層広々とまた白々しくなった。彼女が私の方をじろじろと、明らさまに而も偸み見の体で眺めるの
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