線を待ち受けたが、彼女はいつまでも私の方を見てくれなかった。で私は眼を後廻しにして、先へ進んでいった。
彼女の鼻は、日本人にしては高すぎるくらいに、急角度で細く聳えていた。或は鼻筋の上の一際濃い白粉のせいで、そう見えるのかも知れなかった。が何れにしても、みさ子の鼻はそれほど高くなくてよかった。遠くから見て、鼻が眼につく顔立ではなかった。然し或は彼女の鼻も、高いわりに細そりとしてるので、遠くから見たら余り眼につかないかも知れない……。がそれは大して関係のないことだった。ただ真直な鼻であることだけで沢山だった。――頬の工合は、全くみさ子そっくりだった。肉附が薄くて、興奮したら益々蒼ざめてゆきそうな頬、一人で思い耽っていて、微笑の影のさすことがない頬だった。その蒼白い皮膚の下には、或る神経質なものが漂っていた。みさ子はどんな姿態をしても、またどんな夢想の折にも、時々多くの女がなすように指先で軽く頬を支えることがなかった。またその頬へ、決して接吻を許さなかった。或る小さな新劇団にはいっていた頃、有名な劇作家が酒の上の戯れで、その頬に接吻しようとした時、口ならいいけれど頬辺はいやと答えたのは、
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