宙に吊されてるように頭をがくりと垂れ、一人は前から首を宙に吊されてるように頭をがくりと上げ、そしてキスをしていた。背丈がちがうのだ。やがて、二人は離れて、月の光りの中に出て来た。それが、手塚さんと姉さんだ。
私は恥ずかしかった。キスそのことではない。キスなどは映画でいくらも見ている。恥ずかしかったのは、手塚さんと姉さんとのキスが、醜くてグロテスクだったこと。いくら背丈がちがうからといって、首縊りみたいな真似をしなくてもよさそうなものだ。そしてあんなところで、醜い桜の木のそばなんかで、しなくてもよさそうなものだ。恋人同士のキスにある筈の、清らかさ香り高さなぞ、みじんもなかった。
そして今、手塚さんは、なんということを私に言ったか。私の方を愛していたと。おう、私の方をだって。そんなことがどうして言えるのだろう。そして、私の愛情を求めるつもりではないと言いながら、私の手を両手に握りしめた。汚らわしい。そして、分りますね、分ってくれますねだと。いったい、何を分って貰いたいのだろう。然し、私にも少し理解しかけたことがある。
手塚さんは、郷里に帰っても、私のとこの二階の室は、やはり借りておい
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