どうしてあんなに醜いのだろう。若木は艶やかだが、古い幹となると、かさかさで節くれだち、垢が鱗のようにつもってるとも言えるし、皮膚病のかさぶただらけとも言えるし、見られたざまではない。散りやすい優しい花がその枝に群れ咲くのが、ふしぎに思える。
裏口の横手のあらい竹垣の外が、建物疎開跡の空地になっていて、その隅っこに、桜の古木がある。たいへん古い木とみえて、上の方は枯れ朽ち、横枝を少しく茂らしている。その古木のそばに、私はあれを見てしまったのだ。ちょっとした洗濯物を干し忘れてる気がして、夜中に雨でも降るといけないと思い、取り込みにいった。おぼろな月明りだった。洗濯物は見当らなかった。そんな筈はないと思いながら、しばらく貯んでいると、竹垣の彼方の桜の木のところに、何か眼につくものがある。気味わるかったが、竹垣からのぞいてみた。ぞっと背筋がつめたくなった。
月の光りがささない桜の木影に、その幹によりかかるようにして、ぶら下っている。白い単衣のひとだ。私は息をのんで、走り去ろうとしたが、次の瞬間、見違いだと分った。ぶら下ってるのではなく、二人抱き合って立っているのだ。でも、一人は後ろから首を
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