た。
杉本は云うのである。――ボルシェヴィキは仮面によって成立つ。彼等一派は、民衆の仮面をつけた纂奪者である。民衆の手に政権を戦い取ったと称しながら、実は民衆を戦い取ったのだ。十パーセントの譲歩をして、九十パーセントの権力を掌握する。そしてこの権力の獲得と維持のためには、手段と目的とを置換することさえ辞さない。マルクスの理論は正しかろうとも、それが彼等労働政治家の手に渡る時には、そこに反対物への転化的飛躍が起る。近代の政治は、権力の予想なしには成立しない。権力の予想を失う時、それはもはや政治ではなくなる。この思想を彼等は理解しない。なぜなら、それは彼等の政治的権力と矛盾するからだ……。
此度は杉本が、かすかな苛立ちで眉をひそめていた。そして有吉は、薄笑いを含んで、髭をひねっていた。
二人の視線が逢った時、有吉は云った。
「君の説は独特で、なかなか面白い……。」
それが、一閃の光みたいに、杉本の顔を輝かした。思想の底に触れない相手の微笑が、自然と、彼をも微笑ました。
「なあに、みな受売りです。」
「受売り……。」
そして、杉本の微笑につりこまれて、突然声高に笑い出した。
「はっ
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