ですね。僕なんか、隙がないものだから……。それで、ロシア通の話を聞けば、労農政府に同感してくるし、イタリア通の話を聞けば、黒シャツに同感してくるし、去就に迷う始末なんで……は、は、はっ……。」
突然笑い出した。が、案外真剣で……。
「君はどう考えるですか。」
「え?……。」
そして二人の間に、全く観念的な会話が展開していった。要約すれば――
杉本は云うのである。――ファシズムには、それ自身二つの矛盾を含んでいる。ファシズムは元来、ブールジョアジーの攻勢的武器であって、その対敵目標は、ブールジョアジー以外の凡てにある筈だ。それが、発展の道程に於て、広く大衆に――小ブールジョアジーのみならず、小農民階級やプロレタリアートの或る層にまで、立脚しようとする。そこに機構的矛盾がある。また、ファシズムは、それ自身の独裁を目的とする。随って、議会政治の無用――立法権に対する執行権の優越を、肯定するものである。然るに、それを議会政治の基礎の上に獲得しようとする。そこに手段的矛盾がある……。
有吉は心持ち眉をひそめていた。が敢て抗弁はしなかった。杉本はその肉の厚い顔付に、かすかな笑いを漂わしてい
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