ら、君に教えを乞わなくちゃならんことも、いろいろ出てきそうで……。」
変な挨拶である。その裏の気持を読み取ろうとして、杉本は、相手の顔色に眼をつけた。有吉は眼を外らして、書棚に並んでる、和洋雑多な書籍を物色し初めた。
バラックとも云ってよいほどの、粗末なアパートの、和洋折衷の室である。四角な区劃、それが、入口の控室で切取れ、押入で切取られ、下が三尺の戸棚になってる床あきで凹み、奥の室に通ずる襖、硝子戸の六尺の窓……。片隅に机を据えて、その横で……。主客とも、何だかその処を得ないような様子である。杉本は、不器用な手附で、茶と菓子とをすすめ、有吉は、書棚の方へにじり寄っていた。
「ほう、随分多方面なものが……。クロポトキン……明快な論理だそうですね。」
「少し集めていますが、隙が出来たら読んでみるつもりです。」
「アナトール・フランス……面白いですか。」
「それも、まだ読んでいないんです。」
「マジー……と、魔法ですか。これは愉快でしょう。」
「それも、実はまだ……。」
「…………」
ちぐはぐな問答が続く……。
有吉は坐り直して、渋茶をすすった。
「君は、自由に研究が出来て、羨しい
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