思いました。」
 酒を飲みながらも、彼女の頬からは血の気が引いてゆくようだった。そして眼が底光りしていた。
 長谷川にもようやく、彼女の気持ちが分りかけてきた。分りかけることは、同時に、柿沼という人物に対する反感が高まることだった。
「よろしい。僕にもすこし分りかけたようです。」長谷川は静かに言った。「柿沼さんは、しかし、別なことを言いましたよ。女というものは、家庭にあっては単に長火鉢でよいし、家庭の外にあっては単に湯たんぽでいいが、あなたは、千代乃さんは、長火鉢にも湯たんぽにもなれない人柄だと、そう言いました。」
「まあ、穢らわしい。」
「あのひととしては悪口のつもりかも知れないが、実は却って、あなたを褒めたことになるじゃありませんか。」
「いいえ、長火鉢だの、湯たんぽだの、なんてことでしょう。電燈とか、ランプとか、なぜ言わないんでしょう。」
「だから、あなたは、長火鉢にも湯たんぽにもなれないと……。」
「いいえ、わたしは柿沼の湯たんぽだったでしょうよ。そして昨日も、湯たんぽ扱いされました。」
 それは、理屈ではなく、実感なのだろうと、長谷川は覚った。どうにもならないことだった。

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