ら、前に知らしてくれたっていいのに。」
「昨日は一日、用事があったものですから。忙しかったわ。」
「いきなり電話でしょう。大至急用があるなんて……。あわてちゃった。なにかあったんですか。」
「逢いたかったの。」
はぐらかすように言って、彼女は眼をちらと動かした。
それで、言葉が途切れ、コーヒーが来て、長谷川はそれをすすった。
しばらく見ない間に、千代乃はすこし痩せたようだった。なんだか疲れてるようで、顔色も冴えていなかった。その代り、なにか思いつめてるといった風な、一筋の心棒が通ってる感じだった。
「なにかあったんでしょう。」と長谷川は尋ねた。
「いいえ。」
彼女はかるく頭を振り、それから上目を据えてちょっと考えた。
「あなた、今日、お忙しいの。」
「いつもの通りです。」
「それでは、これから、どこかへ連れていって下さいません。電話では、ちょっと言いにくかったものですから……。どこでもよろしいわ。お金は、わたし用意していますの。ただ、東京都内はいや。東京の外でさえあれば、どこでもいいわ。どんなところでもいいわ。いろいろ、お話がありますの。ね、行きましょうよ。あなたがだめなら、わ
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