くくりであり、家庭の慰安でさえもあります。いろり、という言葉の意味は、日本語にしても外国語にしても、あなたにはよくお分りのことと思います。それはまあそれとして、わたしは、亡くなった妻の常子にも、千代乃さんにも、またほかの二三の女にも、すっかり魅力を感じなくなりました。セックスの衰えから来たことかとも思いますが、そればかりではありません。女性というものは結局、男の活動の邪魔になり束縛になることを、多年の経験で知らされたのです。だから、家庭の中にあっては単なる長火鉢で結構、家庭の外にあっては単なる湯たんぽで結構……だが、長火鉢にせよ、湯たんぽにせよ、終始わたしの身辺について廻らないで、在るべき場所をはっきりきめておいて貰いたいものですよ。」
議論ではなくて、告白めいた調子だった。暫く黙ってた後で、彼は突然言った。
「これは、形式主義ではないつもりです。わたしとて、形式をふみ破ることぐらいは知っています。」
ふいに眼を見開いた、とも言える工合に、彼の陰った眼差しは光りを帯びた。
「わたしも、これで、ずいぶん危い橋を渡ってきたし、綱渡りの思いをしたこともあります。その綱の上に、もしも蚯蚓が
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