「それでは、ほかに、どうすればよろしいんですか。」
「わたしと、わたしの娘たちに、はっきり挨拶をして貰いたいものです。」
「千代乃さんから……。」
「そうです。ほかに誰もいないではありませんか。」
長谷川は身内が震えるのを覚えた。
「あなたは、あのひとを侮辱したいんですね。」
「いや、どうして侮辱などと考えなさるんですか。単に形式にすぎないことですよ。」
「形式による侮辱でしょう。分りました。あなたは人間を道具扱いしていらっしゃる。あなたにとっては、人間の感情なんか問題じゃないのでしょう。家庭においても、女房は単に長火鉢にすぎない。きまった場所に据えてありさえすれば、それで充分だ。奥さんが亡くなられたので、長火鉢がなくなった。だから、別な長火鉢が新たに必要になって……。」
「まあお待ちなさい。」
柿沼は長谷川を制して、かすかに皮肉の皺を頬に刻んだ。
「それは、あなたの言われる通りです。女房は家庭においては、一種の長火鉢にすぎないし、茶の間にじっと尻を据えておればよろしい。実際、わたしのような生活をしている者にとっては、茶の間に長火鉢が一つあることが大切で、それがつまり、家庭のしめ
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