を訴える……いや、批評しはしませんでしたか。」
「はっきり記憶していませんが……。」
「それなら、なお結構です。どうもわたしには、いったいに、女がふだんどのようなことを考えているか、さっぱり見当がつきませんのですよ。」
 柿沼の言うところは、はっきりしているようでいて、実は、なんだかすべて上の空のような感じがあった。顧みて他を言ってるようだった。長谷川はいやな気持ちになった。
「あなたが言っていられるのは、一般の女のことでなく、千代乃さんのことでしょう。」
「そうです。初めにお聞きした通りです。」
 それでもやはり、柿沼は眼を宙にやって、何気ない顔付きをしてるのだった。普通の世間話でもしてるようだった。その調子に、長谷川は乗ってゆけなかった。沈黙が続いた。
「おいやなら、千代乃さんの話はやめてもよろしいです。」柿沼は天井の方へ煙草の煙を吹きあげた。「実のところ、わたしにとっては、あのひとの意向なんかは、もうどうでもよろしいのです。松木君はしきりに気をもんでるようですが、わたしは何とも思ってはいません。ただわたしの悪い癖で、物はすべてその在るべき場所に在ってほしいと、そう思うだけのことで
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