ね。わたしには、どうも分らないことがあるので、聞かしていただけませんか。」
長谷川は黙ってビールを飲んだ。
「突然、このようなことを言い出して、へんに思われるかも知れませんが、これがわたしの流儀なので、決して、あなたの意表をつくというような、そんなつもりではないのです。男同志の話は、率直に限ります。そこへゆくと、女相手は、どうもわたしには苦手です。言葉通りに素直に受け取ってはくれず、いろいろと尾鰭がつきますからね。家内の病中もそうでした。こちらからいろいろ容態を尋ねると、もう自分は危篤ではないかと気を廻しますし、こちらで黙っておれば、ひどく冷淡だとひがみます。いずれにしても、やりきれませんよ。だから、君子でなくとも、危きに近寄らずということになります。するとまた、薄情だとされます。結局、わたしは、薄情だと自認せざるを得ません。あなたには、そういう経験はありませんか。もっとも、あなたはまだお若いから、そういうことはありますまいけれど……。」
「別に、そんなことを考えた覚えはありませんね。」
「そうでしょう。その方が結構です。けれども、あのひとから、千代乃さんから、そのようにわたしのこと
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