…と書いていたじゃないか。」
「そうだったかね、よく覚えていないが、単に文章の調子だろう。責任を持たんよ。実際、よく知らないんだ。しかし、おかしなことになったものだ。僕はちょっと君に注意しとくだけのつもりだったが、君の方から、僕に聞きたいことが多そうじゃないか。まるであべこべだ。」
石山は長谷川の方を探るように眺めた。
「実は、君にこの頃、恋人でも出来たらしいと、ちらと耳にしたことがあったが、僕は気にもとめなかった。すると、相手はあのひとだね。東京に出て来たのかい。君を追っかけて来たんだね。ねえ、打ち明けろよ。そんならそれと、松月館への返事の書きようもあったんだが……。」
「いや、さっきの通りの返事でいいんだ。」
長谷川はもう度胸をきめた気持ちになっていった。
「僕たち二人の間だけのことだ。ほかの者はどうだっていい。愛し合ってるんだ。いけないかい。」
「驚いたね。そんなこと、いけないかって、聞くやつがあるもんか。まあ落着いて、差支えない程度、僕に打ち明けてみないかね。」
「別に打ち明けることなんか、なんにもない。愛し合ってるだけで……ただそれだけさ。」
長谷川はなにか腹が立ってき
前へ
次へ
全97ページ中56ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング